2012年8月25日土曜日

荷風と歩く深川(1)



清洲橋という鉄橋が中洲から深川清住町の岸へとかけられたのは、たしか昭和三年の春であろう。この橋には今だに乗合自動車の外、電車も通らず、人通りもまたさして激しくはない。それのみならず河の流れが丁度この橋のかかっているあたりを中心にして、ゆるやかに西南の方へと曲っているところから、橋の中ほどに佇立むと、南のかたには永代橋、北の方には新大橋の横わっている川筋の眺望が、一目に見渡される。西の方、中洲の岸を顧みれば、箱崎川の入口が見え、東の方、深川の岸を望むと、遥か川しもには油堀の口にかかった下の橋と、近く仙台堀にかかった上の橋が見え、また上手には万年橋が小名木川の川口にかかっている。これら両岸の運河にはさまざまな運送船が輻輳しているので、市中川筋の眺望の中では、最も活気を帯び、また最も変化に富んだものであろう。
   (永井荷風「深川の散歩」より抜粋)



2 件のコメント:

  1. 箱崎川の入り口、昭和5年頃の航空写真を某サイトで見つけました。

    http://www.yasuda-re.co.jp/yasuda/meguri/03.html

    当時の様子が良く分かり、ああこの風景を見ながら散歩したんだなと、実感(^^)

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